あたしがお料理を全部食べて、ごちそうさまでしたって言ったときの司くんの満足そうな顔を見ると癒される。
最初は、予想外の口うるささに驚いたけど、最近は司くんにガミガミ言われるとなんだか落ち着く。
司くんの声は心地いい。
わざと司くんの目の前で乱暴に髪を拭いたことがある。
「ちょっと!また!」
ちょっと!て言うときは、たまに声がひっくり返る。
「ダメって言ったでしょ!?もう!髪傷むよ!ガシガシしないで、こうするの!」
司くんはあたしからタオルを取り上げ、ぱふぱふと髪を挟んで拭いてくれた。
「なんで?」
「ん?」
「なんで傷むの?」
司くんはあたしの顔を見てしばらく口を開けていた。
「なんでガシガシ拭いたらダメなの?なんで傷むの?」
「あれだよ。あの。キューティクル?」
司くんが困ったような顔になったから、あたしは面白くなってきて質問を重ねた。
「キューティクルがなに?」
「あの。はがれるし?」
「はがれちゃうの?」
司くんはあたしの髪をぱふぱふ挟みながら、プリプリしはじめた。
「よく覚えてないけど!美容師さんが、言ってたから!こうやって拭くのが、いいんだってさ!わかった!?」
司くんの顔を見ると落ち着く。
司くんの声を聞くと安心する。
でも。
司くんを見ていると自分がますます嫌いになる。
司くんに笑いかけられると、嬉しい反面申し訳ない気持ちになる。
あたしなんかと住んでると、司くんの輝きを曇らせてしまいそう。
でももっと眺めていたい。
でも一緒に住んでいるのは申し訳ない。
矛盾する気持ち。
もやもやする。
あたしは左頬に手を当てた。
最近、客を案内する前にこうするのが、習慣になってしまっている。
…司くん。
もやもやは日ごと増えていく。
ダメだ。
もやもやがたくさんたまってくると、お酒に走りたくなる。
ホストに行きたくなる。
仕事が終わったら、久々に行こうかな…。
ものすごい無駄遣いだけど、司くんには関係ないことだしね。
こればっかりは口出しされたくないし、節約のしようがないよ。


