「おまかせします」

サツキさんは少し困った顔になって言った。

「長め、とか、短め、とか希望はないの?」

「ないよ」

「…じゃあ坊主にしてもいいわけ?」

「いいよ。サツキさんが、俺に似合うと思うなら坊主でもモヒカンでも」

「もう。後になって気に入らないとか言わないでね」

サツキさんはブツブツ言いながら、俺の髪をいじりはじめた。

言うわけないじゃん、そんなこと。

サツキさんが一生懸命考えてくれて、切ってくれたら俺はそれでいいよ。

それで、美容師の仕事思い出してまたやりたいって、思ってくれたらいいなーなんて。

そのためなら、俺の頭くらいいくらでも使って?

なんて、人身御供的な気持ちが強くて、サツキさんには悪いけど正直あんまり期待してなかったんだけど…。




「切ったなぁ!」

谷川がマジマジと俺を見ている。

「似合うでしょ!」

「おー」

言いながら谷川は、俺の後頭部を触ってきた。

前髪とてっぺんのへんは、垂らしたり立たせたりしてアレンジできるように少し長さを残しつつ、

あとは短く、ちょっと伸びた坊主的なかんじ。

「サツキさんに切ってもらったんだあ」

俺、ホクホク。

「へえ!サツキちゃん、そんな特技あるんだ。器用だなぁ」

谷川は感心している。

「でしょ?すごいんだから」

「プッ。なんで司が威張るんだよ」

「だってすごいじゃん」

「意味わかんねーよ」

俺と谷川がワーキャーやってるうちに太田も来て、俺は太田にも自慢した。



俺たちは呑気に

なんの根拠もなく

このまま

楽しく

やっていけるんだと



思い込んでいた。