「とにかくあたしに構わないで」

司くんはひょこっとあたしの顔を覗き込んだ。

「好きになっちゃうから?もしかして、さっきからつっかかってくんのも、それで?…イテッ」

あたしは司くんの顔にタオルを投げ付けた。

「違うって!さっきのは例え話!好きな人がいるならその人大事にしなさいって言ってんの!あたしなんかに構ってたら、うまくいくもんもいかなくなるよ!」

「ああもう!くどい!」

司くんはあたしにタオルを投げ返してきた。

「好きじゃないって言ってんじゃん!俺は好きじゃないんだよ!好きじゃない!」

あたしはまた司くんにタオルをぶつけた。

「好きなんだって!もうさっさとくっついて家から出てけ!」

そしたらあたしは平穏に鬱々と暮らせるのよ。

司くんがいるからおかしくなる。

司くんに泣き顔を見られたくなかったから、マンションの前をうろついてた猫を構って涙が止まるの待っててアレルギーが出た。

おかげで泣いてるの誤魔化せたけど…つらい、かゆくて痛い。

あれだけ力一杯拒絶されたら好きなんて絶対バレるわけにいかない。

こんな気持ちはないほうがいい、そっちのが楽。

司くんはタオルを握り締めて、般若のような顔をしている。

「出てけだとぉ?また可愛くないこと言って」

「可愛くなくて結構」

あたしがプイッと顔をそらしたら、司くんは低い声で言った。

「どうしても、大事な人を好きな人にしたい?」

まだ言うか。

「したい?じゃなくてそうなんです!鈍感!」

「ふぅん…くっついて出ていけと言ったね?」

「言った」

「はぁ…」

ため息のあと、司くんがベッドに乗る感覚がしたからそっちを見ると、目の前に司くんの顔があった。

「おあいにくさま。俺が大事に思ってるのはアナタなんで」

…。

…え?

あたしが固まっていると、司くんはフンッと鼻を鳴らした。

「自分がしつこく何言ったか考えて、反省してね?」

そう言ってベッドから降り、洗面器を持って部屋から出ていった。