司くんだって男の子なんだから、女の子が言い寄ってきたら、するでしょ。



店長みたいに。



あたしは久々に昔のことを思い出して、いやな気持ちになった。

司くんも店長と同じ男だもんね。

うん…。

コウジさんは黙りこくったあたしに気遣って話し掛けてきた。

「ほら、何年も前の話だしさ。今はそういうの聞かないし、桃花ちゃん一筋だよ」

一筋って…。

「いや、あたしとは全然そんなんじゃないし。っていうかショックとか受けてないから大丈夫」

うん。

そんなんじゃない。

ただの同居人だし。

勝手にあたしが好きになっただけ。

そして少し、司くんは特別って、美化してただけ。

「桃花ぁ。ごめんね、コウジがいらんこと言って」

小雪が申し訳なさそうにしてるから、あたしは笑顔を作って言った。

「ううん!あたしも、司くんまさか童貞とか思ったことあるから、安心した」

安心って何が?

あたしはわけわからないまま喋り続けた。

「背中流してくれてそれだけなんて、えーっ?て思ったし」

うん、そうそう。

あれ。

え?

来るもの拒まず?

え?

…あたしは?



小雪はあたしの思考に気付いたらしく、

「気まずくなりたくないから、我慢したんじゃないの?司クン可哀相に」

と言った。

「なんだよおまえ、押し倒せっつったり可哀相っつったり忙しいな」

「だって。桃花には仕事とか昔の変な男とかそんなんじゃなくて、ちゃんと大事にしてくれる男と一緒にいて欲しいもん」

ぶっ。

あたしはお水を吹いた。

「だからぁ、司くんとはただ…」

反論しようとしたあたしを制して、小雪は言い切った。

「司クンは桃花を大事にしてると思うよ」

コウジさんもうなずいている。

「うん、よく我慢したと思うよ…」

二人とも、普段の司くんを見てないからそう思うだけ…ただのお節介な性格だよ。

と思ったけど、言わずにおいた。

実際そんなことなくても、小雪たちにそう言われただけで少し嬉しかったから。