「んなっ!何よそれ!」
あたしは顔が熱くなったのに、小雪は平然ともっとすごいことを言った。
「ヤケで下手だったとはいえ、桃花は誘ったわけでしょ?スルーしちゃうんだもんねぇ。ていうか、司クンてなぁんかウブすぎるよね?まさか童貞とか!きゃはははは!」
ど!
あわわわわわ…
なぜかあたしが恥ずかしくなった。
ケラケラ笑う小雪にドキドキしていたら、コウジさんがさらっと、
「司の名誉のために言うけどそれはないよ」
と言った。
へ?
「え?なんでコウジが知ってんのそんなこと」
コウジさんが言うにはこうだ。
司くん達がライブハウスに出始めた頃のこと。
コウジさんがライブ帰りに友達とバーに寄った時、ライブハウスでよく見かける女の子達が後から入ってきたそうだ。
席が近かったため、彼女達が大声で話していたら聞く気がなくても耳に入ってくる。
「真由美、司と寝たんだって」
「うっそ、ずるい!あたしも司狙ってんのに」
「大丈夫じゃない?アイツ、来るもの拒まずみたいよ?」
女の子たちはきゃらきゃらとはしゃいでいた。
「でも司ってどーなんだろ?うまいのかな」
「下手だったら真由美は何回も寝ないと思うよ」
「きゃはーっ!司ったら可愛い顔してんのにやるねー」
「ただ、終わったら一人でさっさと帰っちゃって、ラブラブいちゃいちゃはしてくんないらしいよ。それより、あんた前追っ掛けてた他のバンドの男、どーしたの」
「ああ、意外とつまんなかったからさぁ…」
聞くに耐えないと、コウジさんとお友達は店を出たそうだ。
…。
小雪はバシッとコウジさんの頭をはたいた。
「そこまで詳しく説明してくれなくていいよ!桃花、ショックで固まっちゃったじゃない!」
「あ、ごめん…でももとはと言えば、おまえが司童貞なんて言うからだろ?」
「司クンは可愛いから童貞でもいいの!」
「なんだよそれ。そんな風に思われるのは、男にとって不名誉なんだぞ」
二人がぎゃあぎゃあ言っているのを、あたしはぼんやり眺めていた。
別にショックじゃないよ。


