「あたし、先月まで吉原で働いてたの。聞いたことある?ソープ街よ」

あたしは驚いて、ただうなずいた。

「三年くらい働いたかなぁ。理由は、単純にお金が必要だったから。でね、働いてわかったことがあるの」

あたしは淳子さんの目を見て、先を促した。

「男と女は、違う生きものよ桃花ちゃん。男は、とにかく出せればいいの。そのための風俗よ。好きな相手じゃなくても射精するのよ」

淳子さんはブランデーで口を潤して続けた。

「好きだから抱かれたい気持ちはわかるけど、避妊もしてくれないようないいかげんな男相手じゃ、リスクが大きすぎるわ」

あたしの目を見て淳子さんはきっぱり言った。

「彼女じゃなくて、桃花ちゃんが妊娠してたら、彼はどうしたかしらね?」

…。

「セックスするなとは言わないわ。でも、女は、相手を選ぶことが必要よ。手当たり次第ヤリたいってんなら、ピルでも飲むことね」

淳子さんはタバコに火を点け一息ついて、

まあ、恐いのは妊娠だけじゃないからね、やっぱり生はお薦めはできないけど、と煙と一緒に言葉を吐き出した。

黙っていた浅田さんが、

「彼女、きっと苦労するわねぇ」

とため息とともにつぶやいた。



早紀…。



店長。



「でもあたしが悪いんです…あたしが…店長を…」

あら、やっぱり店長さんなの、と浅田さんはたいして驚かなかった。

「お友達っていうのは、早紀ちゃんなのね?」

あたしはうなずいた。

「桃花ちゃん、辛いわね」

浅田さんは優しく言ってくれたけど、あたしは激しく首を横に振った。

辛いのは、早紀だ。

あたしは早紀に合わせる顔がない。

消えてしまいたい。

店長に触れられたこの体ごと、一生早紀の目に入らないところにいきたい。

店長に触れられたことなんて、なかったことにしたい。

忘れたい。

何もかも。

早紀がもっと早く言ってくれてたら、なんて考える自分が嫌だ。