「そうだ、谷川が俺を捜してるって言ってたな」

用事を済ませてくるからしばらく待ってて、と鶴田さんは去ってしまった。

あたしはぼんやりと、機材を片付けたりお客さんと談笑するバンドのメンバー達を眺めていた。


別世界だな…


そう思った。

あたしの勤めるはお店は、基本12時から終電までの出勤だから、12時間近く店にいる。

控え室で他の女の子達と話したりもできるんだけど、

あたしは週に3回と出勤があまり多くないし、大体指名で埋まっているからそんな時間はない。

他の女の子達みたいに、ブランドものに興味があるわけじゃないし、

ホストにボケたりしているわけじゃないから、

何を話していいのかわからないし。

あたしは、風俗業界に集まってくる人たちと合わないのかなと思ってた。

でも。

今日ここに来て、特にそういう訳じゃないんだなとわかった。


人と関わるのが面倒なんだあたし。


早く家に帰って一人になりたかった。

打ち上げのお誘いを断るタイミングを奪った司くんを恨めしく思った。





打ち上げはライブハウスの近くにある居酒屋の2階を貸し切りにして行われた。

出演していたバンドのメンバーや、スタッフらしき人、

色んな人が集まって思い思いの席で話している。

あたしはなるべくひっそりとして、隙をうかがって帰ろうと思っていた。

「サツキちゃん!飲んでる?あ、でも飲み過ぎないでよ!」

いつもより少しハイテンションになった鶴田さんがあたしの隣に座った。

「あはは、普段はそんなに飲まないから大丈夫だよ」

鶴田さんはあたしの持っているジョッキを見て、それ何杯目?まだセーフ?とおどけて聞いてきた。

気を遣わせちゃってるな。

正直、この雰囲気の中でずっと一人でいるあたしは浮いているだろう。

申し訳ない気持ちになったから、少し喋ってから今日のお礼を言って退散しようと思っていたら、

「あ、オーナーの知り合いだったんですか!」

ビール瓶を持った男の子が鶴田さんにお酌をしにきて、あたしを見て言った。