「ママお帰りなさーい!あれっ?」

お店に入ると、元気のいい女の子の声が飛んできた。

「送り出しのついでにスカウトでもしてきたんですか?」

「違うわよ。この子は美容師さん。あたしの担当さんよ」

浅田さんはあたしをカウンター席に座らせて、熱いおしぼりを出してくれた。

ちょうど閉店するところだったらしく、女の子たちはあたしに構わずに片付けをはじめた。

あたしは喋れないほど嗚咽した。

カウンターに突っ伏してバカみたいに泣いた。

「お疲れさまでーす」

何人か女の子が帰っていき、隣に誰か座る気配がした。

その人はあたしの頭を撫でながら、浅田さんと世間話をしている。

女性の優しい手を感じながら、早紀にもよく頭を撫でられたなぁなんて、ますます泣けてきた。

何も聞かずに優しくしてくれる浅田さんと、お店の人。

申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

あたしは顔をあげて、精一杯言葉を振り絞った。

「づい…ばぜん」

浅田さんは優しくほほえんで、

「桃花ちゃん、喉乾いたでしょう?オレンジジュースでいいかしら?」

と聞いてくれたから、あたしはコクコクうなずいた。

「桃花ちゃんっていうんだ?可愛い名前ね。いいなぁ、あたしなんて超フツーで嫌になっちゃう」

あたしの隣に座った女の人は、少し膨れっ面で続けた。

「あたしなんて淳子よぉ。おもしろくなーい」

浅田さんはあたしの前にグラスを置きながら、淳子さんに言った。

「あら、淳子だって素敵じゃないの」

「ママはジュンコじゃないからそんなこと言えるんですよ!高校の時なんて、クラスに4人いたんですよジュンコ!」

「あら、それは…ちょっと多いわね」

と浅田さんは目を丸くした。

泣き疲れてわけがわからなくなったのと、

二人のやりとりに気が抜けたのとで、

あたしは少し笑おうとしたのに、

「うぐっ」

喉から変な音が出ただけだった。