「桃。ごめん」

早紀が謝ってばかりなのは、こんな嬉しいニュースをあたしに黙ってたからだ。

「あたし、結婚する」

幸せな報告なのに、早紀が苦しそうにしてる理由は…


わからない。



わからないし、考えたくないけど、

あたしが笑顔でおめでとうって言えば、きっと早紀も笑ってくれる。

彼氏のことも、いろいろ楽しそうにのろけてくれる。

そう思い込んで、口を開きかけた時、

早紀が言った。



「店長と」



…。



「あたし店長と結婚する。店長の子なの」



…早紀。



「も、桃だって悪いんだからね!あたし、何回も言おうとしたのに、話、聞いてくれなかったじゃない!」


早紀は一気にまくしたてた。


ダムが、決壊するように。


涙と言葉が、止まらないようだった。


「あたし、桃より先に店長のこと好きになったんだから!付き合ってるの隠すのだって、辛かったんだから!あたしだって店長のこと好きなのに、あたしは彼女なのに、いつもあんたは自分の話ばっかり…」


「ごめん、早紀…」


「桃のせいで悩んでたんだから!桃、可愛いから、店長が桃のこと好きになったらどうしようとか、今だって…つわりでつらいのに…あたしがいない間に、桃と店長が仲良くなったらどうしようってずっと考えて」


あたしは、ぼんやりと早紀を眺めながら、

妊婦を刺激したら、よくないよね…

なんて妙に冷静だった。

「ごめんね早紀。あたし、帰るから…来て、ごめん」



あたしが謝らなきゃいけないのは


それだけじゃない。



泣きじゃくる友達の姿を、あたしは一生忘れない。




あたしは…


最低だ。


もう、ここには…


今までと同じ場所には、



居られない。