四月半ば。

店長とはあれ以来、二人きりになっていない。

早紀はずっとお店を休んでるけど、片付けは先輩達が交代で手伝ってくれるようになった。

店長にご飯に誘われたりするけど、先輩方に仕事の相談したりして遅くなるから、って断ってる。

「桃ちゃん、最近冷たいな」

なんて寂しそうな顔を作る店長。

あたしは、それを見て満足する。

避けておきながら、相手にされなくなるのは嫌。

店長、あたしを気に掛けてくれてる。

それだけで、何かが充たされた。



何が?



知らない。



「おはようございまーす」

ある天気のいい朝。

日差しは暖かくて、風は春の匂いがする。

こんな日は、いつもは幸せな気持ちで出勤できるのに、あたしはすごく嫌な気分だった。



なんだろう?



もやもやする。

早紀からまったく連絡がないのが、すごく気掛かりだった。

メールの返信がないことが心配でもあり、勝手とは思うけど少し腹立たしくもあり、寂しい。

その反面、早紀のいない職場に慣れてきてる自分もいた。


入院したり何か重い病気だったら、お店には連絡を入れるだろうし…。


きっと、本当に風邪をこじらせてるだけ、そのうち元気になって出勤するよ。


なんて思っていた。



なのに今日はなんだろう?


なんだか不安で


もやもやして


気を抜くと、おなかが痛くなりそうな



変なかんじ。



すごく、嫌なかんじ。



こういうの、胸騒ぎがするっていうのかな?



朝礼での店長の言葉に、あたしはショックを受けた。

「昨日、本人から俺に直接連絡があった。早紀が、退職することになった」

ざわめくスタッフ達。

胸騒ぎの原因は、これだったのかな、と思おうとしたけど…



ますます不安が大きくなった。



違う、まだ何かある。



そう感じたけど、今はそんなことはどうでもいい、早紀のことが心配だ。