「…はぁっ、はぁっ……」

やっと教室につき、荷物を置くなり私は机に突っ伏していた。
ま、間に合った…と、半笑いしながら、我ながら怖いと思い顔を引き締める。
鞄の中の荷物を取り出そうと思いつつ、動いたのは指先だけだった。
小さい頃より断然体力落ちたわ…、とか考えていたら、後ろから声が掛かった。

「おはようございます、琴羽様。どうなさったんですか、そんなにお疲れになって?」

「箕月…おはよ…」

声を掛けて来たのは、クラスメイトの咲山箕月だった。
ほわほわしていて、それでいてきりっとした空気を醸し出す、なんとも不思議な彼女は、入学式当日から何故か私になついていた。しかも敬語で。

「なんでも無いわよ、ちょっと走っただけ…あはは」

箕月は力なく笑う私に、後ろに立ったままビシッと図星を指してきた。

「もしかして、寝坊ではありませんか?それとも、朝から何かドジを御踏みになったのでしょうか?」

うっ…と詰まった私を見て、箕月は私の目の前に回ってくる。
ちなみに私は、何故箕月は学校指定のセーラー服やジャージではなく、メイド服なのか、ずっと気になり続けている。

「図星ですわね。ですからわたくしが琴羽様のメイドに…毎朝御目覚めのキスで覚醒させて差し上げましょうと申出ていますのに」

「はい箕月ー、せめて教室の真ん中でそういうこと言うのやめましょうね?あと私御目覚めのキスとかされも覚醒するようなタチじゃないから!」

思わず大声を上げた私に、クラス中がシーンとなる。
そして、箕月がトドメ。

「あら、失礼致しました。では…御目覚めのちゅっちゅ、で宜しいでしょうか?」

「箕月ぃッ」


なんて最悪な一日の幕開けなんだろう。
私はクラスメイトに何らかの良くない誤解をされた気がする。いや、された。
しかし、私が箕月を恨むことはない。
自分を好いてくれる人をわざわざ嫌いになったりする事など必要無いのだから。
こうして今日も、自称“普通”な私の一日が始まった。