「克幸っ」

「ん?」

「今から、ナンパしに海に行こうぜいっ」

克幸の部屋で漫画を読んでいた渡辺が、不意にそう言い出した。

「やだね」

克幸は漫画から目を離さないまま、きっぱり断った。

「なんでだよ~」

「僕はね、わざわざ海までナンパしに行かなくたって、一緒に海に行く子はいるからいいんだよ」

「それって、もしかして、あの松浦宏子のことか?」

「ああ、そうだよ」

「おまえ、あの女とマジで付き合ってんのか?」

「なんだよ、その言い方。マジじゃ悪いか」

克幸は、漫画から目を離し、渡辺を睨んだ。

「悪かーねーけど、克幸と松浦ねぇ。なんか、あってないような気がするんだけどな」

「合ってないってどんな風にだよ」

「だってさー、あいつ、すんげー真面目で頭良くって、冗談一つ言わねーような奴だろ?それと、この、のほほ~んとした克幸とじゃ、なんか合ってねーよ、やっぱ」

「のほほんてのは何だよ。それに、あいつだって、よく冗談言って笑ってるよ」

「えっ!松浦でも笑ったりするのか?」

「当たり前だろっ。ひとの彼女バケモノみたいに言うなよ。あっ、お前、自分に彼女がいないもんだからって、ひがむなよ~。悪かったなぁ、そんな淋しい男心に気づかなくて」

「そんなことより、海行こうぜ」

「話し変えんなよ。海には行かないって」

「いーじゃんかよー。どうせ暇なんだから、海行こうぜ」

「行かない」

「じゃ、しょうがない。ナンパ抜きで、海行こうぜ」

「行くんなら、別にその辺のゲーセンでもいいだろ?何で海なんだよ」

「俺は、海が好きなの。だって、夏だぜ、今。今海行かなかったら、いつ行くんだよ。なっ、行こうぜ。なっ、克幸く~ん。行きましょ、行きましょ」

渡辺は最後に乙女チックな口調で言うと、立ち上がって克幸の右腕を引っ張った。

「んだよ、気持ち悪りぃな。もう、しょうがないなぁ」

「やった!やっぱ、克幸くんは親友だなぁ」

と、渡辺は、克幸の右腕にスリスリと頬擦りをした。

「なんなんだよ、お前はっ」