もう、片足をタクシーに突っ込んでいる体勢の悟郎に、その男は、

「俺は、さっきからここでタクシーが来るのを待ってんだよっ。なのに、何で、おめーが先に乗んだよっ!」

と、怒った口調で言いながら歩み寄ってきた。

が、悟郎はそのままタクシーに乗り込み、

「悪い、急いでるんだ」

とだけ言い残し、タクシーのドアを閉めてもらい、発車してもらった。

男はまだ何か言っているようだったが、悟郎の目には入ってこなかった。

「空港まで、急いでくださいっ!」






やっと、空港に着くと、悟郎は、全速力で走った。

エスカレーターを駆け上がった悟郎は杉本を探す。

「杉本…、杉本…」

人の間を縫いながらあちこち駆け回って見たが、杉本の姿は見えない。




その時、杉本は、荷物を預けゲートを潜る順番をまっていた。

そして、何気に振り返った時、遠くに人ごみの中を駆け回る人がいるのが目に入った。

「悟郎っ」

だが、もう杉本の順番が来た。

「サンキュ」

杉本は、遠くで懸命に自分を探してくれている悟郎に、小さくそうつぶやくと、ゲートを潜って行った。




ロビーの時計が1時を示し、悟郎の家のデッキが録画を始めた。

と、同時に動き出した飛行機があるのに気づいて、悟郎は窓に近寄ろうとした時、ドンっ!と全身黒尽くめ、サングラスの男にぶつかった。






このまま悟郎を追う方は、
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ぶつかった男を追う方は、
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