執事と共にお花見を。

「ワシの話を、聞いてくれるか」


恵理夜は、黙って頷いた。


「ワシの家内はな、黙って三歩後ろを付いてくる、そんな出来た女じゃった。ワシは、随分と身勝手で、傍若無人な振る舞いをしとったが、当時はそれが許されていた」


深い、後悔を含んだため息が落とされる。


「息子が生まれてからの、ワシは厳しい父親じゃった故、あまり遊んでやらなかった。けれど、春になったら必ず花見に来た。家内が、それだけは譲らんでな。あれは、桜が本当に好きだった……」


と、遠くを見る瞳。

その焦点は、ここには無かった。


「けれど、32年前の春……息子はそこで車に刎ねられて死んだ。ワシらの目を離した隙に」


見通しの悪い道だ。

ミラーが取り付けられたのは最近のことだろう。


「この身長を最後に、息子は永遠にワシらの前から姿を消した」


その高さは、恵理夜の目の高さで止まっていた。