海に行こう



「母親も父親もいて、幸せな奴はいいよな」


「な、佑志いきなりどしたん。今日はお母さん大事な仕事だったんだから、しょうがないでしょ?」


今まで、お父さんがいないことやお母さんの帰りが遅いこと、あたしも知ってたけど、佑志がこんなふうに言ったことはなかった。


「お前なんかに俺の気持ちわかんねぇよ!!」


「ちょ、佑志!」


「なんで…俺だけが不幸なんだよ、俺が何したって言うんだよ!!!」


怒ってたけど、目は泣いてた。


涙こそ流してないけど、佑志は泣いてた。


だからあたしは、強がりな彼の肩に手を置いた。


「佑志はなんもしてないよ!それに、あたしがいるじゃん、あたしの家族だってついてる。乃ノ歌だっているし。佑志は独りじゃない!」


「わかった風な口きくんじゃねぇ!」


そう投げ捨てるようにいいはなって、手に持っていた卒業証書を、アスファルトに投げつけた。


「んなもんいらねぇよ!」


風に押されて、虚しく転がるあたし達の成長の証。


「んなもんあったって、一番いわってほしい奴に会えねぇんじゃ、意味ねぇよ…」


独り言のように言う佑志。


あたしがなにもいえずに立ち尽くしている間に、佑志はいなくなっていた。


その夜、佑志がうちに来ることはなかった。


あたしの机には、2つの卒業証書の筒。


同じものが二つ。


でも、そこに込められた思いは、全くちがっていた。