次の日が土曜日だったのは、不幸中の幸いだった。鏡に映った泣き腫らした顔を見る。とても綺麗だとは言い難かった。

 溜め息が漏れる。何から何まで嫌になってきてしまった。自分は一体何の為に綺麗になりたいと望んだのだろうか。

「──達也さん……」

 思わず愛しい人の名を呼ぶ。そうだ、自分は達也の為に綺麗になろうとしたのだ。

 ──いや、そうだったか? 私は、私自身の為に綺麗になろうとした。そして、何がし
たかったのだろう。綺麗になって、何を。

 彼女は自分の爪を見た。綺麗に彩られたネイル。華麗に舞う蝶々。これは自分自身が望んだ姿。綺麗で笑顔の似合う素敵な女性。それが、自分。

 暫くネイルを見ていると、不思議と心が落ち着いた。そう、自分は綺麗で笑顔の似合う素敵な女性なのだ。

 美知子は鏡の前で笑顔を作った。様々に角度を変え、笑顔を眺める。

 この綺麗で笑顔の似合う素敵な自分に達也さんも課長も夢中になってしまったのだ。そう思うと、鏡の中の自分がよりいっそう美しく笑った。