疑問は酔いが回っている美知子の脳を、少しだけ覚ましてくれた。そして、自分の居る場所を理解した。

 きらびやかな紫やピンクの品の無い照明に浮かび上がったのは、『ホテル』の文字。

「……! ちょ、私、困ります!」

 強引に手を引く課長。此処まで来て何を言っているんだ、と呆れ顔だ。冗談じゃない。自分はそんな事の為に来たんじゃない。そんなつもりこれっぽっちもない。

 美知子は激しく抵抗し、課長の手から逃れると、方向も解らぬまま駆け出した。一刻も早く、この場所から逃れたかった。部屋まで入らなかったのが唯一の救いだ。縺れる足で、それでも何とか人通りがある大通りまで出る事が出来た。

 途端に込み上げる吐き気に、抑える事が出来ずに彼女は嘔吐した。それと同時に涙が溢れ出る。

 何故。

 自分の思慮が足りなかった所為だろうか。まさか、こんな事になるなんて思ってもみなかった。

 綺麗になれた事でうかれて、笑顔を振り撒いて。

「う……ぁ……」

 嗚咽は止まらなかった。悔しさと、情けなさ。美知子は泣き続けた。