「キョウスケ?」


お嬢が少し驚いたように目を開ける。


俺は手を離した。


「顔色悪いですよ。もしかして寝てないんですか?」


「えっ?あぁ…」


お嬢は警戒したように、身を引きちょっと表情を引きつらせている。


またも心臓がズキンと小さく痛む。


俺はごろりと横になった。


「すみません。俺、まだちょっと二日酔いなんで、このまま寝ます」


ケットを頭から被り、お嬢に背を向けた。


「おぅ。じゃ、ゆっくりな」


お嬢はそれだけ声を掛けると、部屋を出て行った。






―――………


その夜は久々にバイクに乗って、道路を飛ばした。


ちなみにシャドウファントムは大学の近くの、知人の車庫に預けてある。


制限速度を70キロもオーバーし、途中で白バイに見つかったけど上手くまいた。


風を切り、街中を走り抜ける言い知れぬ快感に俺のもやもやした気持ちが晴れることを願って。


だけど願いとは裏腹に、どんよりとした気持ちは増すばかり。


いつの間にか東京湾の埠頭に来ていた。



埠頭の手前は公園になっていて、若いカップルがベンチに座ってイチャイチャしている。


苛立ったまま俺はバイクを降り、ヘルメットを外した。


外の空気を吸うと潮の香りが漂ってきた。


人工的な明りで輝いた埠頭の、海の手前の手摺にもたれかかりタバコを一本取り出す。


龍崎会長に言ったことは嘘だ。


ただ俺も頻繁にタバコを吸う習慣はない。



無性に苛々したときだけ……





苛々―――してたんだ。