「うちに何かごようですか?」


彼女はもう一度聞いた。


ヒバリのような軽やかな声。


でも少し疑いを滲ませて、大きな目が不穏に揺らぐ。


「………立派なおうちですね。ここの人?」


俺は何とか答えると、立派な門扉を見上げた。


彼女は俺に近づくと、じぃと俺を見上げてきた。


間近で見る彼女は思った以上に小柄で、華奢だった。


「すみません。不審者じゃないです」


俺は慌てて肩に掛けていたスポーツバッグを持ち直した。


雨で濡れたシャツが肌に張り付いて気持ち悪い。


スポーツバッグのベルトが肩に食い込んだ。


ふっと影を感じ、俺は彼女を見下ろした。


彼女はチューリップ柄の傘を俺の頭の上に持っていき、出し抜けにちょっと笑った。


ひまわりみたいな可愛くて明るい笑顔だ。


その思いがけない可愛い笑顔に、ほんのちょっとドキリとする。


「ずぶ濡れ。風邪引くよ。とりあえず中であったまっていったら?」


彼女の言葉には、裏がなくただただ俺にまっすぐに向けられていた。


俺はそのことにびっくりしつつも、


彼女の優しさに




体と同じように冷え切っていた心が―――ほんの少し温まった。