相変わらず戒さんの行動は予想不可能だ。


俺の予想通り鞠菜の縁談に、乗り気じゃなかった戒さんは鈴音姐さんから逃れるためアメリカの高校を受験すると言った。


「どうして?鞠菜のどこが気にくわへんのですか?」


「気にくわへんってことはないけど…俺の求めてた女とは違うからな」


戒さんの追い求めていた女―――


それが誰なのか俺は知らなかった。





でも彼はずっと探し続けている。今も―――



「と言うわけで、おさらばや!手紙書くさかい、お前も元気でな!!」



通っていた中学校の教師を説得して(脅して)、ちゃっかり根回ししていた戒さんは、まるで弾丸のごとくアメリカへ行ってしまった。




俺が裏切ったと思っていたのに、何故だか俺が戒さんに裏切られたという気になって―――




しばらく俺は荒れた。


反抗期、と言った方が正しいのか。


鷹の紋を入れたのもこの頃だ。


背中いっぱいに広がる彫り紋を見て、母親は絶句。挙句の果てに泣き出す始末。


代わりに親父は、「ようやった!」なんて褒めてくれたけど。


それでも俺の短い反抗期はたった三ヶ月で終わった。


何故なら本格的な受験勉強が始まったから。


戒さんのアメリカ逃亡、鞠菜の婚約破棄。


考えたいことはたくさんあったけれど、考えたくなくて俺は寝る間も惜しんで勉強に没頭した。


お陰で俺は第一希望の東京大学医学部に一発合格。




こうして春が来た。