振り返ったら、戒さんはアルミサッシの扉から顔をちょっと覗かせ、こちらを窺っていた。


俺は知らん振りをして、空を眺める。


戒さんはここまで来れない。


何故なら彼は高所恐怖症だから。


何でもこれよりもっと小さいころ、お兄さんたちに観覧車から突き落とされそうになって、そこから高いところが苦手らしい。


「響輔~!!俺が悪かった!堪忍して!!」


戒さんはアルミサッシの扉から青ざめた顔を覗かせて、必死に声を上げる。


それでも俺は無視。




「響輔~!


響輔っ


響ちゃ~~~んん!!!」




戒さんの必死な声が空に吸い込まれては消えて行く。


何だか不憫に思えて、俺はやれやれと手摺から身を離した。


「塀や木登りは平気やのに、何で屋上はいかんのです?」


「阿呆!虎かて木登りぐらいするわっ!!鷹は空の生き物やから、平気かもしれんが、こっちは死ぬ思いなんやぞ!!」


言ってること無茶苦茶…


まぁそれぐらい戒さんにとって、この場所は辛いところらしく、俺が近づいていくと気が抜けたようにしがみついてきた。


「苦手なのに、何で来はったんです?」


俺にしっかりと抱きつきながら、戒さんは震える声で言った。


「それぐらいせな、お前が許してくれへん思うたんや」


唐突に笑えてきた。


「まだ許してへんけどね」