一年前の初夏。




まだ梅雨の鬱陶しい雨空が残っている日だった。


その日はやっぱり雨で、傘を持ち合わせてなかった俺は、冷たい雨に打たれながらある古めかしい日本家屋の前で佇んでいた。


年代を思わせる古い木の標識には“龍崎”の二文字が。


立派な木のくぐり戸はしっとりと雨で濡れてくすんで見えた。


ここか……


来たはいいけど、さて、どうしたものか。


どうやったら中に入れる?


さっきから遠くで様子を伺っていると、組員と思われるいかつい顔や体系をした男たちが頻繁に出入りしていた。


これと言った言い訳も口実も考えてなかったから、さすがにすんなり入れそうにもない。


そんなことをぼんやり考えながら10分程佇んでいると、さすがに体が冷えてきた。


7月とは言え、今日は気温も低い。


足元から這い上がってくる冷気に、身震いして


「やっぱり今日はやめよう」なんて結論に行き着く。


だけどこのあとどうする?


昨日まで住んでいたアパートは引き払っちゃったし……


とりあえず温まる場所を……





「うちに何か用ですか?」







その声は、うっすらと澱んだ気候の中、軽やかでとても澄んでいた。