俺がタバコを吸うその横で河野さんはふいに小さく笑い出した。


「どしたん?」


「うん。鷹雄くんて喧嘩はあんなに強いのに、駆け引きには弱いなぁって思って」


「駆け引き?」


俺は目をまばたいてすぐ横の河野さんを見た。


河野さんも俺を見返してくる。顔に笑顔を浮かべていた。それはさっきまでのぎこちないものではなく、俺の知ってる柔らかい笑顔だった。


「うん。だってあたしわざと鷹雄くんを挑発して怒らせることしたんだよ?」


意外な言葉に俺は面食らった。


「わざと?何のために?」


俺の質問に河野さんはうっすら笑みを漏らし、体育座りをして立てた両膝に手を乗せた。


「鷹雄くんが怒って帰っちゃったり、あのままあたしを襲ってたりしてたら、あたし鷹雄くんのこと諦められた」


そう言って河野さんはまばたきをして、ほんの少し笑ったけれど、その大きな目に再び涙の粒が光っていた。






「あたしね、ホントは鷹雄くんが何者でもいいの。



最初刺青を見せられたときはびっくりして逃げちゃったけど、



ホントは怖い人だと思うケド……



さっきあたしの涙を拭いてくれた指はいつも通りすごく優しくて、あったかかった。







やっぱり―――好き」