出された冷たい緑茶に一口くちを付けると、向かい側で河野さんがにこにこしていた。


「どしたん?」


「ううん。鷹雄くんって大学内じゃ標準語喋ってるのに、二人きりになると関西弁になるから。関西弁かわいいね」


「あ…うん、まぁ前にも一度会うたし、そのときも関西弁やったし」俺は緑茶のグラスをテーブルに置いた。


「何て言うんやろ。河野さんの前では飾らん素の自分を見せられる気ぃがするんや。なんか楽」


そう言ったあとに俺はちょっと顔をしかめた。


「ほんま堪忍なぁ。楽ってのは女の子に対する言葉やないなぁ」


「ううん。嬉しいよ。気を許してくれてるって感じで」


河野さんはにこにこ笑った。


思えば河野さんとこんな風に喋るのは随分久しぶりだ。構内で会えばそれなりに世間話もするけど、あんまり俺から喋りかけないし。


河野さんの方も常に周りに友達が居る状態でわざわざ俺に喋りかけることはない。


「鷹雄くんて実家京都だっけ?」


「昔は…って、前言うたやん」


そう突っ込みを入れると、河野さんはくすぐったそうに笑った。


「可愛い」


「男に可愛いは褒め言葉にならへんよ」


河野さんのくだけた様子に俺の方も気持ちが徐々に緩んでくるのが分かった。


「失礼ついでにもう一つ。鷹尾くんて強いんだね。あたしびっくりした」


テーブルに頬杖をついて河野さんがわくわくした目を俺に向けてくる。


「弱いと思うた?まぁそう見られるのは慣れてるからええけどね」


お嬢にも“ひ弱そう”なんて言われたし…


いかにも細そうなこの体がいけないのかなぁ。っても鍛えてるし、筋肉はあるほうだと思うけど。


俺は飲んでいたお茶をテーブルに置いて、正面から河野さんを見据えた。





「俺が極道やなかったら、河野さんと付き合うてるのかな?」





極道じゃなかったら、お嬢にも会う事はなかった。


一生、俺の中で彼女の存在は認識されることなく、終わるはずだ。


それが良いのか悪いのか―――





俺には分からない。