俺の言葉に河野さんは、ここで初めて顔をあげた。


ちょっとびっくりしたように目を開いている。


アーモンド形の目の形が……少しだけお嬢のそれと良く似ていて、俺は思わず目を逸らした。


河野さんはちょっとだけ笑った。


「違うよ。鷹雄くんはあの場所に居たのが違う子でもきっと助けてたと思う」


「買い被り過ぎや。俺はそんなデキた男やあらへんよ」


「デキる、デキないって問題じゃない。優しいんだよ、鷹雄くんは……」


誰かに……


そんな風に言われたのは初めてだった。


俺は自分を優しい人間だと思わないし、出来た人間だとも思わない。


感情のない人形のようだ―――とは思うけど。





河野さんの、夏だと言うのに冷たい指先が俺の手にそっと触れた。


思えば俺も河野さんも寂しかったんだと思う。



好きな人に気持ちを伝えられない気持ち。


絶対に受け入れられない事実。




その共通した気持ちが、心に同じ隙間を作っていたに違いない。




その隙間が偶然重なり、風穴に一筋の風を通した。






俺は河野さんの指を握り返した。




足を止めて彼女に向き合うと






俺は彼女に口付けをしていた。