暗い夜道に二人の影が伸びていた。


俺たちは10分ほど無言で歩いていたが、やがて河野さんの方から口火を切った。


「鷹雄くん…さっきはありがとう。でも……何にも聞かないんだね」


「聞いてほしいの?」


「ううん!ただっ!あたしあの人についていったわけじゃないの。今日はね、飲み会だったんだ。ほら、文学部の青江さん、あの子が開いた飲み会に行ってたの。彼は青江さんが連れてきた飲み会のメンバーでっ。って、青江さん知ってる??」


河野さんは俯いたまま、早口でまくしたてた。


「うん、知ってる。賑やかな子やよね」


正直、賑やかってもんじゃない。ほとんど毎日俺がとってる課目の教室に来てはやたらめったらお喋りを振りまいている…、まぁ煩い女だった。


俺が最も苦手とするタイプだ。


お嬢も賑やかだが、それとはまた別。


青江という女の子はただ煩いだけ。しかも下品だし化粧はケバイし…


お嬢は口は悪いけど、その中にいっつも優しさと気遣いが滲み出ている。


だめだな…俺はすぐにお嬢と比べてしまう。


「あの子ね…鷹雄くんのこと気に入ってるみたい」


河野さんが声を弱めてさらに頭をうな垂れた。


「へぇ。知らなんだな…」


正直好かれても困るんだが…


「ってどーでもいいよね。こんな話」慌てて言うと河野さんは手をもじもじ合わせてバッグのハンドルを持ち替えた。


俺は彼女のそんな横顔を見ると、ちょっとだけ笑顔を浮かべた。





「俺が何も聞かへんのは、河野さんがあんな軽そうな男について行くとは思わんかったからや。



興味があらへんのとは違う。どーでもいい奴やったら、俺はわざわざ助けたりしいひんし」