男は地面にがくりと膝をつくと呻くように腹を抱え、涙目になって俺を見上げてきた。


俺は男の襟首を掴むと、力を入れて強制的に立ち上がらせる。


「お前にいいこと教えたるわ。俺の正体」


そう言い放って、俺は男の襟から手を離した。


男はあっけなく地面に逆戻り。何を言われるのかびくびくした様子で俺を見上げてくる。


俺は着ていたカットソーを脱いで、ゆっくりと背中を向けた。





「俺は極道、関西白虎会直系、鷹雄組の鷹雄 響輔や。



今度河野さんに手ぇ出してみぃ。今度こそ生きて帰れんようにしたるわ!」





俺のドスを含ませた怒鳴り声に圧倒され、男は顔色を変えると、「ひ、ひぃ」とみっともない声を撒き散らし、中腰になって慌てて走り去っていった。


ここは青龍会の縄張りだし、出来ればこんなことしたくなかったけれど、あの男が河野さんに二度と手出しできないようにするには、これが一番手っ取り早くて、効果的だ。


カタギはこれを見ると逃げ出すからな。


「た…鷹雄くん……」


すぐ近くで河野さんが口を両手で覆って、弱々しい視線で俺を眺めていた。


「怖い思いさせて悪かった。帰ろか。送っていくさかい」


俺は何でもないように言ってカットソーを着ると、バイクのハンドルを握った。


と言ってもこのマシンに乗せて送るわけにはいかない。


何せ俺もヘルメットを着用してきていないから、貸すこともできないわけだ。


俺は重い車体を引きずると、河野さんを促した。


河野さんは俺の申し出を断ると思いきや、素直についてきた。