会長は再び湯のみを口元に運ぶと、薄い笑みを浮かべた。


「俺のこと、虎間の倅から聞いてるだろ?」


何て答えれば言いのか分からなかった。


素直に「はい」と返事をすればいいのか、それとも「いいえ」と返せばいいのか。


俺が返答に窮していると、会長はふっと余裕の笑みを零した。


「隠さなくてもいい。俺とお前の仲だ」


会長は意味深に笑い、お茶を喉に通した。


骨ばった男らしい喉が上下する様に、ちょっとだけ見惚れる。


同じ男だって言うのに、どうしてこの人はここまで完璧なんだろう。


以前ウィスキーを交わしたときは、そんなこと感じる余裕はなかった。


けど、改めて見ると、俺も戒さんもこの男を前に果たして勝てるものが一つでもあるのか、と疑問が浮かび上がってくる。




「あと少し…」





空になった湯のみを置いて、会長はぽつりと漏らした。


「もう少しだ」


切なげに揺らいだ瞳を俺に見せて、会長は寂しそうに笑った。





こんなにも想いあっている二人なのに



その想いは、やがて運命によって引き裂かれる。



その未来が見えながらも


会長が下した選択は








果たして正しかったのだろうか―――