結局代わりのコーヒーは注文せず、俺たちはそのファミレスをあとにした。


「少し歩きたいねん。付き合うてや」


戒さんはちょっと寂しそうに笑った。


俺は素直に彼の言葉に従った。


東京の夜の街は賑やかだ。大阪だって同じぐらい賑やかなのに、ここに居る人たちはみんな何かに追われているようにせかせかしている―――ように見える。


戒さんはそんな時間の…人の、流れに逆らうようにゆっくりとした足取りで道を歩いた。


俺もその歩調に合わせる。


ジーンズのポケットに両手をつっこみ、ぶっきらぼうに戒さんは口を開いた。


「なぁ。ここにおる人たちって何でこんなに急いでんだろうな?」


俺が思ったことを戒さんも感じていたんだ。


「あいつもそうなんやろうな」


“あいつ”って言うのをわざわざ誰のことか聞くまでもない。


俺は俯いた。


灰色のアスファルトが夜の影を落としているのに、鮮やかな店のネオンが反射していてまがい物の宝石のような安っぽいものに見えた。


ここに流れてる時間はホンモノなのに、ホンモノじゃない。


だけど時間は確実に過ぎていく。


東京でも大阪でも、俺にもお嬢にも戒さんにも―――平等に。




だけど龍崎会長の時間は



きっとこの何倍ものスピードで過ぎているんだろう。





早く。


早く。





彼の声が聞こえてきそうで、俺はほんの少し耳を塞ぎたくなった。