戒さんが小学校2年にあがったとき、彼は突然薙刀を習いだしたいと言い出した。


「響輔もやらへん?」とまだ可愛かった戒さんが無邪気に聞いてきた。


笑顔だけ見てると天使のようだが、このときの戒さんは、すでに中身が悪魔だった。


薙刀なんてはっきり言って興味がなかった。


女の人がするイメージだったし、第一俺は武器を使っての闘術は興味がなかったのだ。


したがって俺の中で剣道もなし。


「興味あらへんです」なんて答えると、「やろぉや。響輔が一緒やって言うとお母さんが許してくれるんや」なんて戒さんは真面目に言った。


俺はダシか……


結局俺はしつこく誘ってくる戒さんに根負けして、薙刀を習うことになった。


「二人一緒なら」と案の定、鈴音姐さんは戒さんに薙刀を習うことを許してくれたのだ。


戒さんの作戦勝ちだった。


鈴音姐さんは、やっぱり戒さんにそう言うこと……いわゆる男の子っぽいことをやらせたくないようだった。


お兄さんたち二人にはそんな態度をとらなかったのに、三男の戒さんだけはそうゆうことをさせるのを酷く嫌がった。


あとで知ったけど、鈴音姐さんはホントは戒さんにヤクザとは無縁の世界で生きて欲しい、できればカタギの生活を送らせたかったらしい。


これは鈴音姐さんから直接聞いたわけじゃなく、俺の母さんから聞いたことだけど。


鈴音姐さんは戒さんに厳しかったけど、手のかかる三男を愛していたことに間違いはなかった。


しかしそんな愛情とは反対に、戒さんの興味は最初から白虎会にあったみたいで、「兄ちゃんたちを超えたる」なんて息巻いてたっけ。




戒さんは生まれながらの極道だ。


その中に流れる血は間違いなく、白虎の血で、虎間の意思を、野望を一番色濃く受け継いでいるようだった。


そんな戒さんが将来白虎会の会長になるのなら、白虎会は安泰だろう。



だけど戒さんは白虎を受け継ぐのではなく、その更に上の地位を目指していたことを知るのは



まだまだ後のこと。