とりあえず遊びに来る話はまた今度になり、家に帰るとお母さんご夕飯の支度をしていた。

「ただいまー」

「おかえり。学校はどうだった?」

「また瑛子と壱夜と同じクラスだったよ」

「また?これで何回目かしら。きっと何か縁があるのね」

「ほんとびっくりしたよ!」

これにはさすがにお母さんも驚いたみたいで、くすくす笑いながら台所へ戻っていった。
鞄をソファに放り投げ、リボンを外しブレザーを脱ぐ。
美味しそうな匂いに誘われてお母さんの手元を覗くと、今日はあたしの大好物のハンバーグのよう。

「それより聞いてよ!葵兄がうちのクラスの副担任なんだよ!?葵兄の転勤先がうちの学校なんて……お母さんは知ってたの?」

むくれながら問い掛けると「当たり前でしょ」だって。

「きっと内緒にしてて小春を驚かせたかったのよ。さあ、そんなところで制服脱がないの。シワになるからちゃんとハンガーにかけなさい。お湯沸いてるから先にお風呂入ってきたら?」

「はーい」

イマイチ腑に落ちないまま、お母さんに背中を押されて脱衣所まで行き、着慣れない高校の制服を脱ぎ捨てた。
葵兄があたしのクラスの副担任なんてホントびっくり。
妹のあたしから見ても贔屓目無しに格好いいお兄ちゃん達は、はっきり言って自慢だ。
葵兄と凌兄が学生の頃なんてあり得ないくらいモテていたし。
バレンタインなんて何人もの女の子がうち押し掛けてきたっけ。
それでもその人達のチョコは受け取らずにあたしのチョコだけもらってくれた時は、ほかの子達には悪いと思ったけど嬉しかったな。
でも・・・これから先女の子達に囲まれる葵兄を間近で見る事になるのは複雑な気持ち。
あたしだけのお兄ちゃんでいて欲しいのに……。