蘭は部屋に入ると、鞄を足元に落とした。

そのままベッドに倒れ込む。

急に力が抜けた気がした。

何をする気にもなれない。

体育館裏から教室に戻り鞄を持つと、追われるように校門を出た。

しばらく歩いて、ふと足を止めた。

海岸通りには、行けない。

行ってはいけない。

何故だかそう思った。

海岸通りに出ずに、普段あまり通らない道を進んだ。

遠回りをして、家にたどり着いた。

佐雪はまだ帰っていなかった。

荒田香織――。

あんな人がいたなんて。

外国語コースのことは何も知らない。

専門コースをいくつも持っていて、生徒数も多いマンモス高校だから、顔すら知らない人も当然いる。

でもあんな美人がクラスメートなんて、かないっこない。

私は人見知りが激しくて、言いたいことも言えなくて、かわいくないしスタイルだって良くない。

そうだよね。

浮かれていた。

ピーターが私のことを好きだなんて、そんなことあるわけない。

「バカみたい……」

蘭はつぶやいた。

今まで我慢していた何かがプツンと切れた。

ポロポロと、あとからあとから涙がこぼれ落ちる。

バカみたいだ。

ほんとに私はバカだ。

蘭は枕に顔を押さえつけ、声が漏れないように泣き続けた。