「好きだと言われたの?」

たたみかけるように、香織が聞いてくる。

「……」

「ピーターに、あなたはふさわしくないわ」

と、香織は言い切った。

蘭は胸をえぐられるような痛みを感じた。

そう。

それは蘭自身が恐れていたことだ。

わかっていた。

そんなことは、私にだってわかっている。

ピーターにふさわしくないことは。

「あなた、英語は?話せるの?」

「……」

蘭は黙って首を横に振った。

「私はピーターとは英語で話すのよ。ピーターがいくら日本語が上手くても、本当の気持ちを正確に伝えられるのは英語よ。ピーターが日本語で何を言ったのかは知らないけど、勘違いしないほうがいいわ」

と、香織は言った。

「――わかってる」

蘭は声を絞り出すように言った。

「じゃ、私がピーターと付き合っても文句はないわね?私は自分の気持ちを、正確にピーターに伝えられる。きっとピーターも、私に正直な気持ちを正確に伝えてくれるわ。――もちろん、英語でね」

蘭は答えることができなかった。

涙すら出ない。

蘭は香織の顔を見ることもできず、くるりときびすを返して足早に歩き出した。