「月島さん」

蘭は名前を呼ばれて、振り向いた。

教室の出入口に、クラスメートの女の子が立っている。

蘭は椅子から立ち上がり近づいた。

「何?」

「外国語コースの荒田香織って人が呼んでる。体育館裏よ」

「体育館裏?」

蘭は顔をしかめた。

体育館裏など、用がなければ行くこともない場所だ。

いや、用すらない場所だろう。

「何かしたの?」

と、クラスメートが聞いてきた。

「え?」

「えらく怖い顔してたわよ、その人」

「そう……。ありがとう。行ってみる」

蘭はそう言って教室を出た。

東校舎から体育館までは、少し遠い。

もう帰らなきゃ。

ピーターが防波堤に座って、待っているだろう。

蘭は急ぎ足で、体育館裏に向かった。

そこに着くと、誰もいなかった。

蘭は立ち止まって、あたりを見回した。

何なの?

そう思った瞬間、背後で足音がして、蘭は振り返った。