アイスコーヒーは、グラスの底で溶けた氷と混ざり、2色の層になっていた。

「出ようか」

「うん」

蘭とピーターは、静かに席を立った。

すっとさりげなく蘭の前に立ち、ジーンズの後ろポケットから財布を出す。

支払いが終わると、サッと蘭のために扉を開けた。

1つ1つの動作が流れるようにスマートで、蘭は感動すら覚えた。

同い年の、いや日本の男性で、こんなしぐさがキザにならずにさりげなくできる人が、一体何人いるだろうか。

店から出ると、慌てて蘭は言った。

「あの、ありがとう。明日、お金返すね」

「ダメだよ。いらない」

と、ピーターは答えた。

「でも……」

「ちゃんとお金がない時は、蘭に助けてもらうから。それまではダメ」

と、ピーターは言った。

「送るよ」

そう言って、ピーターは左手で蘭の肩を抱いた。

右手で青い傘をさし、ゆっくりと歩き出す。

今までは、ただ話をするだけだった。

一緒にわずかな時間を過ごし、蘭の家まで歩く。

だが、手をつなぐこともなかった。

こんなふうに、1本の傘をさして肩を抱かれて歩くことなど、想像もできなかった。

蘭は、今にも破裂しそうになっている胸を押さえた。

――2人の距離は、グッと縮まった。