蘭の目から、涙があふれた。

「どうしたの?蘭……」

ピーターは困ったように、蘭の顔をのぞきこんだ。

蘭は慌てて涙をぬぐった。

「ごめん。ピーターのように、優しく言ってくれた人、いなかったから」

「……」

「家を建てた時も、色々言われたの。女が家を建てられるわけがないとか、男に援助してもらっているとか……」

蘭はその時のことを思い出して、唇をかんだ。

お母さんはもっと、悔しかっただろう。

「気にしちゃダメだよ」

ピーターは蘭の肩に手を置いた。

「ぼくは、蘭と蘭のお母さんの味方だよ」

と言って、蘭に笑いかけた。

「うん」

蘭はやっと笑顔になって、うなずいた。

「送ってくれてありがとう」

「うん。――じゃあ」

ピーターは少し片手を挙げて、来た道を歩き出した。

曲がり角で振り返って、手を振る。

蘭も小さく手を振って見送った。

ピーターの背中が見えなくなると、蘭は両手を握りしめた。

ピーターの温もりが逃げてしまわないように、強く、強く握りしめた。