「な、何よ」

蘭は、少しのけぞった。

佐雪はニヤニヤとしている。

「恋煩いね」

「こ、こいわずらい?」

蘭はどもりながら聞き返した。

「恋の病よ。病気になるほど、誰かを好きになることよ」

と、まだニヤニヤしながら、佐雪は楽しそうに言った。

「や、やめてよ。違うよ」

「母親の直感は当たるのよ。――ねぇねぇ、どんな人よ。顔、見せなさいよ。写真、あるんでしょ」

と、携帯電話を指差す。

「な……ないわよ。そんなんじゃないったら!」

佐雪の興味津々な態度に、蘭は慌てた。

まるで女子高生のように目を輝かせている。

まったく、気分だけは若いんだから!

蘭は内心苦笑しながら、立ち上がって佐雪を押しやった。

「はいはい、今お風呂入るから。出てってよ」

「何照れてんのよ。いいじゃない、教えてくれたって。ケチッ!」

無理矢理部屋から追い出されながら、佐雪は口をとがらせた。

ドアを閉め、蘭はため息をつきながら制服のシャツを脱いで、ベッドの上に置いた。

まったく、何を楽しんでいるんだか!

と、またドアが開いて佐雪が顔を出す。

「付き合ってもいいけど、妊娠と病気には気を付けなさいよ!」

それだけ言うと、素早くドアを閉める。

蘭は顔を真っ赤にして叫んだ。

「うるさいっ!」

蘭は枕をつかむと、ドアに向かって思いっきり投げつけた。