それは…思ってたけど…っ



理由もわからず無我夢中で息を切らせてここへ来たけれど!



でも、



「は…はじめて逢っていきなりそんなこと思わないわ…!」



まっすぐにあたしを見つめる漆黒から逃げるように視線をそらせた。



…赤い顔を見せたくなかった。



なにより、あたしの心を見透かしているような清んだ黒に耐えられなくて…。



「はじめてじゃない。昨日逢った。」



「……っ」



どこかムッとした声が頭上から降ってきた。



「…その姿は…知らないもの…」



怒らせてしまったのかとドキドキして、あたしは言い訳をするように小さな声で言った。



そしてすぐに何てことを言ってしまったのかと内心焦る。



だってその受け答えでは、夢だと思おうとしていたあの黒い狼を彼だと肯定したようなものだ。



未だふわふわと不安定な気持ちは、あたしをただただ困らせる。