永原が居ないと気付いたのは、全ての作業が終わってからだった。

「いつの間に…」

永原に肉料理で何が食べたいか聞こうと思い、永原が一緒に居た事を思い出した。

俺は我を忘れていたらしい。

たまにそんな事がある。

気付いたら冷蔵庫の棚に綺麗に並べられた肉片の前に立っている。

食べる女と顔見知りだと、そうなる事が多い。

だが今回は客とあって、顔見知りってだけじゃない。

我を忘れる度合いも違い、誰かに電話をかけていたらしい。

右手に握る通話時間の表示された携帯がそれを物語っている。

発信履歴を確認すると、どうやら電話の相手は蒼井のようだった。

作業の後とあって、予想は付いていた。

自分が何をいったか記憶に無いので、もう一度蒼井に電話をかけた。

「…純君?…どう、したの?…二回も電話、して…」