拍子抜けした俺の口からは「あ」とか「お」しか出なかった。

「純君…何か、変だよ?…大丈夫…?」

心配して俺の顔を覗き込んだ蒼井の顔が異様に近い。

「へ?…あっいやぁ、大丈夫大丈夫」

俺は顔を横にブンブン振って笑って見せる。

多分苦笑い。

そんな俺を見て「そっか」と言って蒼井はすぅっと離れた。

「中、どうぞ。…それ、いつもの場所まで…お願い、ね」

俺は品物を持って家に上がった。

履物をたたきに揃え、まっすぐキッチンへ向かう。

それが指示された“いつもの場所”だ。

冷蔵庫の隣に置いてある蛇口付きのタンクに、品物である“佐々木麻央の血”を注ぎ入れる。

一気にキッチンが生臭い鉄の臭いで充満した。

窓を開けたいところだが、そんなことしたら外に臭いが漏れてしまう。