「来ないでッ!」

佐々木麻央は尻を床に擦って後退りをし、ついには壁と背中が重なってしまった。

「君は選ばれた女。俺の為に命を捧げるんだ」

俺は一歩一歩、ゆっくりと佐々木麻央に近付いて行く。

「な、何でもするからっ殺さないで!」

生まれたばかりの小鹿の様に2本の細い足を震わせながら立ち上がると、壁を伝って逃げ回り始めた。

何処に行こうと結果は同じだ。

俺は無言でゆっくりと追いかける。

何か面白いものを見ているかかの様にニヤニヤと笑いながら…。

「お願いっ殺さないで」

可愛らしい顔を恐怖に歪め、何度も振り返る。

「私はお、美味しくないからっ」

佐々木麻央は立ち止まり、体ごと此方に振り返った。

「肉なんか全然付いてないんだからっ」

「そんなの見ればわかる。丁度いいぐらいだ」

佐々木麻央の丁寧に描かれた細い眉がピクリと動いた。

「じゃ…じゃぁ寝てあげるから」

腹黒い女、可愛いのは見た目、か…。

「君の体に興味は無い。俺は君の肉の味に興味があるんだ」

冷たく微笑む。