「で、デート?」


「そうでしょ?放課後、誰もいない教室で二人きりよ?デートじゃない!」


胸を張りながら言われても、違う気がするんだけど…。



「いや、でも、あの…」



「あ、でも心配しないで!ちゃーんと、応援してるから!」


「応援…?」


なんのことだろう。


「もちろん、たまの恋よ!」



「こ、恋…?」



え、恋?私の?


「なぁに?隠さなくていいのに。好きなんでしょ?橋本のこと」


好き?


私が、橋本くんを?


「そんなんじゃ、ないよ」



違う、恋なんかじゃない。



「だって…」



だって、彼には。



「橋本くん、もうすぐ両思いになる子がいるんだって」



そして、あの表情を思い出すと、なんだか泣きたくなる。



あんなに、想われてるのに。



「私なんかが、入る隙間なんてないよ」



だから、この感情は決して恋なんかじゃない。



「たま?」



「それにね、だって苦しいの」



橋本くんのことを、考えると苦しい。


これっぽっちも幸せな感情が浮かんでこない。



「…たま、きっとさ、それだけ相手のことで心がいっぱいになることを、恋って言うんだよ」


そっと、手を握られる。


「逃げないで?たま。初めてでしょ?そんなに、一人のことでいっぱいっぱいになるなんて」


「うん」


「大切にしてあげてよ。たまの心」



大切に…?


なんて、難しいんだろう。



「たまが、その気持ちをなんて呼ぶのか決めればいいけど、たま、今とっても綺麗な顔をしてるから」




「だから、たま、その気持ち、大切にしてね?」



「…うん」



泣きたかった。


今、心のままに泣きわめいたら、とてもとてもすっきりするんだと思う。



…でも、この感情をそんな簡単に、無くしたくなくて。













…泣けなかった…。