橋本くんは、綺麗だと思う。



例えば、大きな骨張った手とか。



ぴんと伸びた姿勢とか。



光を通してもなお黒い髪とか。



一重の割にはくりくりした瞳とか。



伏せたら影ができるくらい長い睫毛とか。



(あ、橋本くんだ。体操服着てる。今から体育なんだ。)



二階にある教室から見ているなんて、気がつかないだろうから、心置きなく見れる。



(色白って訳じゃないんだ…。やっぱり男の子だなぁ…。体つきが全然違う。)


バレる心配がないと思うと、ついまじまじと見てしまう。




(あ、笑った。思いっきり笑うと、意外と可愛いなぁ)



友達と、小突きあってじゃれている。



(ふふっ。今の表情じゃ、あんなに綺麗な表情をするところなんて、想像できないや)


顔が緩んで、にまにまとしてしまう。



そんなことをしていたら、あっという間に一時間が終わってしまった。



(残念だなぁ。もうちょい、見たかった…)



名残惜しくて、運動場を何度も見る。



「そんなに見つめたら、穴が空いちゃうぞーっ!」



目の前で、手をひらひらと振りながら、にぃっと口角をあげている、女の子がいた。



「あずちゃん?」


「たまさー、橋本見てたでしょ?ずぅっと」


「…そんなこと…」


ないっ、と言う前に、あずちゃんが続けてくる。


「あるある。だって、ほら!そのノート!真っ白じゃない!」


ぴらっと開かれて、指を刺されると、何も言えなかった。


「さぁ。何があった?」


「な、何も」


「ないわけないでしょ。何?橋本に惚れた?」


「違うよ!ただ、モデルを…」


ごにょごにょと、誤魔化すように喋ると、全てが伝わったらしい。


「なるほどねぇ。面白いことになってんのね」



本当に、ただ楽しいのだろう。


きらきらと輝いている。



「面白いことじゃないよ」




「じゅーぶん面白い。だったら、一時たまは、放課後デートかぁ。あ、それはつまんないかも」