「だから、描いてみたいんでしょ?いいよ。別に」



「え、…え?」


「どうする?今から描く?俺は何してればいいの?」



そりゃ、描いてみたい、けど。


でも、でも!



「橋本くんっ!」


「何?」


「えぇっと、あのね、描いてみたい、けど…」


「うん。だから、描いていいよ。好きなだけ」


うわ、嬉しい…って、違う!


「でも、悪いよ!だって、描いてる間、じーっと座って待ってなきゃいけないんだよ!?」


「別にいいよ?」



「それに、描き出したら、なかなかすぐに終わんないし、遅くなるし!」


「それは、大変だねぇ」


「でしょう?だから…!」


「さすがに、夜道を女の子一人で帰らせられないね。一緒に帰ろうか?」


ふぇ、フェミニスト、とかいうやつ?


「え、いや、違くて。そんなつもりじゃ…よくあることだしっ」


「よくある?駄目だよ。玉木さん、女の子なんだから」


「でも、橋本くんだって遅くなったら危ないよ!」


「俺は、男だからいいの」


「男女差別はよくないと思う!」


「…そう?なら、玉木さんが俺を送ってよ。それならいい?」



「え、う、うん…?」


「なら、問題ないね。ほら、描きなよ」


あ、あれ…?いいのかな?



「描きたいんでしょう?俺を」



そうだけど。


「どうぞ?」



そして、握らされたのは、4Bの鉛筆とスケッチブック。



(…そうだ。描きたかったんだ…)



あの時の彼を。


心のままに。



「あの時の、表情じゃない…」



鉛筆を動かそうとして、相手を見つめると、違和感がある。


…描きたい、と思った顔じゃない。



「表情?」


うーん、と難しそうな顔をする。


確かに、表情なんて、感情に伴ってくるものだから、なかなかしてって言ってできるものじゃないよね…。



「橋本くん、あの時、何を考えてた?」