―――靖弘目線―――

同期の片桐 絵里に話かけられた。

「ねぇ、田川君、髪の毛染めたんだけど、どうかな?」

興味ない。…とは言えない、めんどくさい…仕事中だろ…

「似合ってるよ。」

これが無難。これで会話終了。

「本当~そう言ってもらえて、嬉しい♪昨日、すっごい高かったんだけど、進められてトリートメントしてもらってさ~すっごい、指通りいいんだよ!触ってみて!」

別にいいし…
はぁ…早く終わらしたいし、

そう思って彼女の髪に触れた。

あぁ…あの人の方が指通りがいい…こんな人工的な、ものじゃない…もっと艶やかで、柔らかくて…比べ物にならない…

「一ノ瀬君!」

その瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。

なんで…ここにあなたが…

絶対気付いているはずなのに…まるで…

俺を拒否するように奥の部屋に入ってしまった…

頭の中で警報がなっている。
だけど…身体が動かない。

せっかく…次で確実にものに出来ると思っていたのに…

全部が音を立てて崩れていく。