「ごめんね。家まで送ってもらって…」
「いいんだよ。ユカ様の命令だしさ。じゃ、俺も帰るわ」
梶瀬君は、またニコっと笑うと、私に手を振って後ろを振り向き歩き始めた。
数歩進んだ所で、
「あ、忘れてた…」
とまたこちらに踵を返すと、私の目の前に立った。
「あと一つだけ言う事があったんだ」
「なに?」
私が聞き返すと、梶瀬君は私の目をじっと見つめて黙りこんだ。
急に真面目な顔になったから、私は目をきょろきょろと動かして戸惑ってしまう。
そして、梶瀬君は目を閉じると、私の肩に両手を置いて、どんどん顔を近づける。
「ちょ…ちょっと待って!」
私は、両手を梶瀬君の胸に当てて押す。
けれどチビで非力な私の力じゃ全然かなわない。
梶瀬君…私の事もう大丈夫だって言ってたのに。
どうして…?
困惑して泣きそうになっていると、いきなり梶瀬君の両目がぱっちり開かれた。
そして、腹を抱えて爆笑する。
「え?え…?えぇ?」
意味不明。
意味ワカメ…。
どうなってるの?
「さて、ここで問題です!今俺がしようとしたことと、藤井先輩とのことの違いはなんでしょうか」
「問題?…藤井先輩とのことって?」
「俺がしようとしてたこと、先輩としたんだろ?」
どうして梶瀬君がそんなこと知って……。
…ユカめぇ!!
「じゃ、俺は帰るな。バイバイ」
梶瀬君は、手を振るとさっさと帰って行ってしまった。