少しの静寂の後、梶瀬君は一つ一つ言葉を選びながらゆっくりと話し始めた。


「…俺が、橋宮の事を…意識し始めたのは中2の冬ぐらいだったかな」


えっ…。


「橋宮って、美化委員だっただろ?…俺も美化委員で掃除とか花の世話とか結構一緒にやってたんだけど…」


「そうだったっけ?」


「覚えてないよな…昔の事だし」


あっ…。
私失礼なことを…。

「ごめんなさい」


「謝るなって。橋宮は委員の仕事一生懸命やってて周り見えてなかったから、覚えてなくて当然だよ」


私、一度何かに集中すると、それしか見えなくなっちゃう性格だし、猪突猛進タイプだもんね。

今では掃除とか面倒だとしか思わないけど、あの頃は掃除とか好きだったし。



「そこで、花の世話をして笑ってる橋宮を見た時、なんか心がさ、温かくなったんだ」



なんだか、梶瀬君の話していること私の事なのに、他人の話みたいに思えてくる。

私ってそんな感じだったんだ。



「それからそんな気持ちが何度かあって、俺は橋宮が好きなんだって気付いた」


梶瀬君…。





「気持ちを言葉にするってすごく難しいんだ。悲しいとか辛いとか楽しいとか嬉しいとか…いろんな気持ちを表す言葉っていっぱいあるけど、言葉じゃ表現できない気持ちもたくさんある。言葉にするんじゃなくて、気持ちを見つけてあげることが正解なんじゃないかな」



そっか。

言葉にしようとするから、わかんなくなるんだ。

この気持ちを見つけてあげることが正解…。

それもなんだか難しいような…。



「橋宮を好きって気付いた時はさ、それを言葉にしようとかそんなこと考えた事なかったよ。でも気持ちはどんどん日を重ねるごとに大きくなっていった。それで中三の冬休み前…俺は橋宮に想いを告げたんだ」



あの日の記憶が鮮明に蘇る。

私はあの時、本当に無神経で最低だった。

なんでちゃんと考える事ができなかったんだろう。

梶瀬君は勇気を出して想いを伝えてくれたのに。

私はそれを踏みにじったんだ。