藤井先輩と私。

藤井先輩の話を聞き終わり、改めてパパさんを見る。

こんな人の良さそうな人が、藤井先輩やママさんにそんな仕打ちをしただなんて、想像できない。

パパさんは、膝の上で拳を握りしめていた。

とても悔しそうな顔で。


「なぁ、陽依。俺卑怯もんやろ?」


藤井先輩は標準語ではなく、いつも通りの話し方に戻っていた。


「結局は俺、逃げたんや。夢とか自由とか…全部うそや。親父の顔が見たくなくて…逃げてたんや」


そんなことない。

先輩は、ただ逃げたんじゃない。


「先輩は、卑怯者なんかじゃないです!先輩は、夢に向かって頑張ってたじゃないですか。ちゃんと前を向いて!私知ってます」


だって、逃げて来たのだとしたら、あんなに座り心地のいい白いベンチ作ったりできないもの。

休日に妹のために本棚とかつくったりしないもの。

この部屋に散在している手作りのインテリア達だって、先輩が夢に真剣だと言う事を証明してくれている。



「私、先輩が夢に真剣な事知ってます」




「陽依…」


















「…すべて」


いままで口を閉ざしていたパパさんが、突如言葉を発した。



「すべて…僕がいけないんだ…」