私の足元には、はにかんだ笑顔の藤井先輩の写真。
「私も…つらい…。藤井先輩を愛する者が一番いやなことを罰としてやっている」
これってもしや。
あの、江戸時代にキリスト教を排除しようとした際に、信者かどうか確かめる方法の一つ?
かの有名な………
踏み絵。
本当の信者はキリストの顔を足で踏むことはできずに、つぎつぎと摘発されたらしい。
このファンクラブの場合、藤井先輩を思う気持ちが強い人ほどこの罰は効果的という訳で…。
「さ、踏め」
いやいやいや。
別に好きな人の写真じゃなくっても、踏むなんてできないよ。
「早く踏め」
足を上げてみるけれど、藤井先輩の素敵な笑顔を踏みつぶすなんてことはできない。
「…いやです」
「はぁ!?」
目怖いです。
でも、いくら脅されても、ファンクラブ規定違反だとしても、こんなことはできない。
「藤井先輩の顔を踏むことはできません」
「なっ!」
「私は、踏みません!」
そう強く言って、地面に落ちている写真を拾うと、楠木さんに手渡した。
茫然としている楠木さん。
≪ピロリロリロリン♪メールだよっピロリロ…≫
あっいっけなーい。
携帯の電源入れっぱだった。
よく今日の授業中鳴らなかったなぁ。
よかった。
携帯を開くと、知らないアドレスからのメール。
「え?」
「おい、コラ。話はまだ終わってな「ちょっと急用なんで帰りまーす」
楠木さんの声をさえぎると、私は楠木さんの横を通り抜けドアへ走った。

