“顔かせ”


…聞き間違いだ。
きっと。

うん。

そうだ。


そういうことにしとこう。


「お前の耳は飾り物か?」



私の耳元でつぶやかれる、この黒いセリフ達は、絶対楠木さんのものじゃない。

だって楠木さんは、美人で上品で…セレブっぽいもん。

こんなヤンキー口調を使う方ではない!



「いい加減、人の話聞けや」


ドンッと突き放されて、私は楠木さんから解放される。
リボンは変な方向へ曲がって見た目がおかしくなっていた。


…そんなことはどうでもいい。

あの黒いセリフの声の主を探さなくては。

リボンに向いていた目を、周りに向ける。

いつのまにみんな帰ったのだろう。

放課後の教室は私と楠木さんしかいなかった。

「あれ…じゃあ…」


でも、目の前の楠木さんはさっきの笑顔のまま。

さっきのやつ言い逃げしたんだね!

もう!迷惑なやつ。




「屋上。顔かせ。橋宮陽依」



あれ?また聞こえた。

このクラスにいるんんだね。

隠れてるんだ。

キョロキョロとクラスをもう一度見まわすが、隠れられそうなところはなく、一体どこにいるんだろう。


「行くぞ、オラッ」

突然腕をグイッと引っ張られて前のめりにこけそうになった。

手をつかんでいるのは楠木さん。

「ちんたらすんな」

そして上品スマイルのまま、黒いセリフを吐いているのも楠木さん。

「……うそ」



どうやら楠木さんは二重人格だったようです。


「ちなみに私、二重人格じゃないから。これが素ですの」



うえぇぇぇ…。


私の心の中読みましたね!?
エスパー………。